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名古屋地方裁判所 昭和33年(わ)1141号 判決

被告人 藤木邦夫 外八名

主文

被告人藤木邦夫、同伊藤隆満、同高山義行、同関忠重、同飯田季包、同羽田野道雄、同緒方和義、同鈴木弘武、同萩原竜彦を各懲役三年に処する。

本裁判確定の日から各被告人に対し三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人等の連帯負担とする。

理由

(罪となる事実)

第一、被告人等は友人同志で飲酒、マージヤン、パチンコ等をしてつきあつていた。被告人藤木、同伊藤は昭和三十三年七月五日午後八時ごろ、名古屋市昭和区鶴舞公園で開催されていたコニーアイランドシヨーを見に行き、会場入口附近で会つたA(当時二十一年)、B(当時二十一年)の両名に話しかけたところ、同女らが気安くこれに応じ同公園のベンチで三時間近くも雑談を交し、うちとけた態度を示したので、旅館へ連れ込んで無理にでも姦淫しようと考え、同女等を自宅へ送ると称してタクシーに乗せ翌六日午前零時ごろ、一まず瑞穂区雁道にある喫茶店「ラツク」へ行つた。午前零時半ごろ萩原、高山、関、緒方の四被告人が同店へ来たのに会つたが、被告人伊藤は女を姦淫する目的で深夜、未知の女を同伴しているところを見つけられた関係上、同人等に素知らぬ振りをしておるわけにもゆかず、右喫茶店外の路上で右被告人萩原等四名の外被告人鈴木、及び友人の近藤健二の二名にマージヤンをやると称して女を旅館へ連れ込んで姦淫しようと話したところ、同人等もこれに賛成した。間もなく萩原、関、鈴木の三被告人は同区西ノ割町二丁目九十番地バー「ゴンドラ」へ行き、後に残つた被告人伊藤ら五名は女を連れて、同区高田町二丁目十二番地旅館「寿々女」へ行くことに決つたので、被告人高山はこのことを被告人萩原らに連絡するためにバー「ゴンドラ」へ赴き、被告人伊藤、同藤木はA、Bの両名に対し、友人の家でマージヤンをやるからお茶でも飲んで見ているようにと誘い、被告人緒方及び近藤健二と共に「寿々女」に向つたが、同旅館前において同女らは旅館へ入うろとすることを知つて危険を感じ入るのをちゆうちよした。一方被告人高山はバー「ゴンドラ」へ行つて萩原、関、鈴木の三被告人及びそこに居た羽田野、飯田の各被告人に女が「寿々女」へ行つた旨を話したので、すでに被告人萩原から同人等の前叙計画を知らされていた被告人羽田野、同飯田もこれを聞いて参加することを決意し、ここに被告人九名及び近藤の間にA、Bの二名を強姦することの共謀が成立した。

萩原、羽田野、飯田、関、高山、鈴木の六被告人は同日午前二時ごろタクシーで「寿々女」に行つたが、ちようどAとBが「寿々女」の前で中へ入るのをためらつている時だつたので、被告人羽田野は同女等に対し「心配するな、誰かが手をつけたら俺が承知せんから」などと言つて安心させ、同旅館へ誘い込んだ。かくして

(一)  被告人伊藤は同日午前三時ごろ、同旅館階下中四畳半の間において後ろむきに坐つているAの右腕を掴んで引つ張り仰向けに倒してその上に乗りかかり、同時に被告人萩原は、同女の横から肩のあたりに抱きついて接吻する等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、被告人伊藤は姦淫しようと努力したけれども、うまく陰茎を腟内に挿入できないので姦淫し得ず。同被告人が立ち去ると被告人萩原は直ちに同女に乗りかかつて強いて姦淫し、次いで羽田野、関、高山、鈴木、緒方、飯田の各被告人及び近藤健二は順次同日午前六時ごろまでの間に強いて同女の姦淫を遂げ

(二)  被告人藤木は同日午前三時ごろ、同旅館階下奥六畳間において逃げるBを追い廻した上、抵抗を断念した同女を寝かせてその上に乗りかかり強いて姦淫しようとしたが、陰茎が硬直しないため姦淫し得ず。次いで被告人飯田は同室東側窓から外へ逃げようとする同女を引きもどし、その手を握つて蒲団の中へ引き込もうと二、三回努力し、また「俺は気が短かいんだ、五分か十分で済むことじやないか」と申向けたりして暴行、脅迫を加えたが、同女の抵抗により遂に姦淫し得ず。次に被告人羽田野は泣いて坐つているBの手を持つて蒲団の中へ引きずり込み、馬乗りになつて姦淫しようとしたが、Aを姦淫して間がないので陰茎が硬直せず失敗し、更に被告人関は俺にもやらせてくれと言いながら同女の肩を押して仰向けに倒し、その抵抗を排除して強いて姦淫し、続いて高山、緒方、鈴木、飯田の各被告人及び近藤健二は順次同日午前六時半ごろまでの間に強いて同女の姦淫を遂げた。

第二、被告人藤木は同日午前六時半ごろ、右旅館階下中四畳半の間においてAよりその所有の定期券入れを受取り、被告人萩原の学生証が在中していたので点検していたところ、A所有の現金千百円があるのを見つけ、これを定期券入れから抜取り、窃取した。

(証拠の標目)(略)

なお、被害者であるA、Bの当公廷における証言は、いずれも本件は和姦であるという部分があつて、検察官に対する同人等の供述調書の記載と全く相反するから、彼此比較検討すると

(1)  先ずAは当公廷で旅館へ入ろうとするとき、関係するようになるかも知れない、そうなつてもいいと思つた、伊藤のときは本人の求めに応じて許したと述べているけれども、旅館へは朝まで皆とワアワア話していたらおもしろいだろうという気持で入つた、と述べたり、寝巻に着換えて蒲団の上に坐りそして寝たが、伊藤や萩原がいたけれども関係することになるとは思わなかつた、伊藤が急にパツと入つて来てビツクリしたと供述したり、その他これらの点に関して矛盾する部分が多く、又Bは、旅館へ行く途中で酒を飲んでいる人がいて、からみついて来たから関係したくなつたと述べたり、関係するようになると思つたのは部屋へ入つたときだと答えたり、又は関係されてもいいと思つたのは公園で話をしているときからで、最初からそういうつもりで公園へ行つて男の人と親しくなればいいと思つていたと供述したりしているけれども、ラツク喫茶店にいるとき、マージヤンに誘われたが私たちは知らないから帰らせて貰うといつたところ友人の家でマージヤンをやるというのでついて行つた、お宿というネオンを見てあれと思つたが、旅館の息子が友達だという言葉を信用して関係されるとは感じなかつた、と述べたりしてその供述は前後矛盾するばかりでなく、同証人が当時考え及んでいるはずがないと思われるような極めて異常な供述があること。

(2)  Bは当公廷で蒲団の傍にあつた自分のパンテイをはいて旅館を出たと証言しているが、伊藤まさ子作成の任意提出書、司法巡査長谷川勇夫作成の領置調書、当公廷における証人金田一夫、同西尾秀逸の各証言、伊藤まさ子の司法巡査に対する供述調書によれば、そのパンテイはB証人が参考人として取調べを受けるため警察署に出頭した後で、旅館の風呂場の前で領置されたことが明らかであつて、同証人のこの証言部分は事実に反すること。

(3)  A、Bはいずれも当公廷で被告人側から示談金を貰つたことは全然知らず、聞いたこともないと述べているが、当公廷における証人伊藤郁太郎、同萩原きよう子の各供述によると、右二名と竹下弁護人とが、A、Bの両名が証人として法廷に出頭するより五、六十日前に被害者であるA家と示談の交渉をし、結局五十万円を支払い、萩原きよう子は示談の際にAと会つたことが認められるので、A、Bの両名がこの事実を知らないはずがないこと。

等、及びその他A、B両証人の当公廷における供述にはあいまいな部分が多いため、容易に信用し難いのに比べ、被害者両名が最初に被害の申告を受けた巡査金田一夫、Bを取調べて供述調書を作成した警部補佐々木正、Aを取調べて供述調書を作成した巡査部長平岩善夫の当公廷における各供述に照しA、B両名の検察官に対する供述調書は特に信用すべき情況の下に作成され、その記載内容もほぼ真実に合すると認め得るのである。

(法令の適用)

被告人等の判示第一の(一)及び(二)の各所為はいずれも刑法第百七十七条前段、第六十条に、被告人藤木の判示第二の所為は同法第二百三十五条に各該当するが、各被告人の所為は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条、第十条、第十四条を適用して、いずれも最も重いと認める判示第一の(一)の罪の刑に併合罪の加重を為した刑期範囲内において被告人等を各懲役三年に処するが、

被害者等は初対面の男と夜半まで三時間も公園のベンチで雑談を交し、次いで喫茶店で遊び、さらに多数の男と共に旅館に入り込む等その行動が甚だ不用意であつてひいてはこれが被告人等が本件犯罪を行うに至つた一因を為していること、犯行は旅館内で行われたのであつて、被害者等が救いを求めて大声を出せば直ちに旅館の経営者により救われたと考えられるのにその挙に出たとは認められないこと、各被告人の家族等より被害者両名の両親等に対し合計五十万円を支払つて慰藉の方法を講じたこと、右慰藉の事実及び被害者両名が当公判廷において司法警察員及び検察官に対する供述を飜えして強姦されたのではなく、和姦であるとか、或いは自らも性交することを欲したのであると供述して、被告人等を弁護している事実に徴して被害者等は被告人等を処罰することを望まず、むしろこれを宥恕していると認められること等諸般の事情を考慮して、被告人等に対しては刑の執行を猶予するのを相当と認め、刑法第二十五条第一項第一号を各適用して本裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条により被告人等に連帯して負担させる。

(裁判官 井上正弘 平谷新五 水野祐一)

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